模型上でピカピカにできた入れ歯を、ソフトな口腔に合った臓器に変える
いよいよ入れ歯ができてきました。私たちの指示通りにつくられたピカピカの入れ歯ができてきました。指示書通りにできていることを確認し、患者さんの口腔に装着です。ここまでは、歯科医が得た生きた口腔の情報・記録を、技工士さんが指示通りに再現し、精魂こめて作ってくれました。
ところがこのピカピカの入れ歯でも、小さな入れ歯とか、入れ歯の両側に天然歯があり、しっかりとバネがかかっている入れ歯などは装着時の調整はあまりいりませんが、難症例の場合はそうはいきません。
装着後の調整は特に慎重に
入れ歯の入った口腔では物をぐっっと咬んだ時、通常の歯は20μ(1000分の20㎜)ほど沈みますが、(歯周組織が弱った歯ではもっと沈みます)歯ぐきも普通は200μ(1000分の200㎜)、柔らかい歯ぐきでは2mmも沈みます。この事実から入れ歯を入れ咬んだ時、歯と歯ぐきにかかる大きな力は口腔全体に単純に一様な力がかかるわけではないということです。
ですから、入れ歯はもちろん金属冠やブリッジなどの修復物を口腔内に装着した時は慎重かつ複雑な調整に時間が必要となり、その後も時には調整を繰り返さねばならないことが珍しくないわけです。 センサーが張り巡らされた複雑極まりない柔らかな口腔内で、このようにフィットさせ装着して初めて入れ歯の機能を発揮することになります。
口腔内への装着・調整の直後から新しい入れ歯はまずその人の口元・顔の雰囲気を決定づけます。 しゃべると入れ歯が気になる人もいますが徐々に慣れます。一般的に今まで合わない入れ歯をしてきた人は発音がはっきりしてきます。そしてすぐに食事の時間がきます。咬む、食べる、味わうなど口腔内で咀嚼運動を行います。この様な新しい義歯の役割はすぐ始まるので、装着時の調整は実に慎重を要します。精魂こめてつくられた硬いピカピカの入れ歯は、口腔内で多角的に機能できるよう徹底的に調整され、人の臓器の一部としてハードではあるが、あらゆるソフトを備えた入れ歯が機能を始めます。
このようにみると咬み合う歯がほとんどなく土手がない難症例では装着後も調整が必要となります。(もちろん総義歯の患者さんでも中年であごの土手のある人や、上下にあまり歯がなくても、上下でしっかり咬む歯が数箇所ある人では装着後の調整があまり必要ない人もいます
難症例ほどしっくりくるまで時間と回数が必要
入れ歯の咬み合わせは、口腔内に歯が多く特に上下の歯がしっかり咬み合うところが多い程、また歯ぐきの土手の一番奥に第二大臼歯あるいは第三大臼歯(親知らず)が残っている程、歯ぐきの土手がしっかりある程、入れ歯は安定しやすいのです。
しかし上下に歯が少ないケース、咬み合う上下の歯がしっかりしていないケース、上下を咬んでも残った歯がすれ違いになって上下の歯で支えられないケース、一番奥の歯が少なくて入れ歯が安定しないケースでは、咬み合わせは一定の位置に決まりにくいのです。 その上アゴの土台が平ら、あるいは更に低ければ尚のことです。
上下(特に臼歯部)に比較的咬む歯が多いケース以外では、咬み合わせを採るステップの咬み合わせは入れ歯作りのワンステップでの咬み合わせであり、次のステップでの人工歯の試適時や最終の装着時で調整を重ね、その人の正しい咬み合わせに徐々に近づけることになります。最終の装着時のミクロ単位の咬み合わせの調整時も慣れない入れ歯という異物を口腔内に入れて、治療イスの上でリラックスできない緊張した状態での咬み合わせなので、これでピッタリとした咬み合わせとは必ずしも言えません。
しかし概ね正しい位置で咬めるように時間をかけてミクロン単位の調整をしていきますとほぼ一定の位置に左右全体が均等に咬め、アゴの動き、運動もスムーズにできるようになります。更に毎日入れ歯を使いながらリラックスした状態での咬み合わせを調整チェックしていきます。
咬み合わせと同時に見た目も最終チェック
同時に装着時には、前のステップでの歯の試適時に歯並びを調整しますが、更に咬み合わせの調整と平行して歯の形の最終チェックの調整をし、顔に合っているか?口元は自然なのか?を確認し装着時の治療は終わります。